4月23日の日報 水曜日の陽炎

お疲れ様です。伊藤です。

暮れなずむ夕暮れ時、打ち合わせから戻ってきて、駅から仕事場までの道中でした。
閑静な住宅街のなかの緩くて長い坂を登るのですが、私の前をゆく1人のサラリーマン中年男性が、
ずっと後ろ向きで歩いているのです。

進む方向は私と同じですから、つまり彼は私と対面している図になります。

本能が察知したのか、「目を合わせてはいけない」と思った私は極力俯きながら歩いていたのですが、
やはりチラチラと彼を見てしまう。
ところが、彼は私の存在など意に介せず、遠くの空(=私の背後にある風景)を、少しぼーっとした表情で見つめながら、トボトボと歩いています。
後ろ向きで。

「なんか怖い!」
相手はこちらを向いているのに、お互いの距離が近づくことはなく、むしろ私が近づけば向こうも同じだけ離れていくという、ふたりの陽炎状態です。
世にも奇妙な物語としかいえない光景。

先日、SNSで「この動画がスゴい」と取り上げられてた『東京の街を後ろ向きに歩いて逆再生しただけなのになぜか幻想的』を咄嗟に思い出しました。
たしかに幻想的といえば幻想的です、時間帯もシチュエーションもシュールリズムとしては申し分ない。
しかも、偶然にもその場には私とその男性しかいないので、シュールさに拍車がかかる。

男性は、しかしなんだか楽しそうというか、無表情のなかにも満悦した雰囲気をかたどっていました。

「ま、どうでもいいか」
人は理解不能の状況に直面すると、パニックになったり考え込んだりしてしまうものかと思っていましたが、案外どうでもよくなるのですな。

そのまま私は仕事場に着いたので、坂を(後ろ向きで)登る彼の顛末を知ること無く水曜日の夜へと戻りました。

それでは明日もよろしくお願いいたします。

後ろ向き再生といえば、個人的にはこのPVです!