6月6日の日報 スキャンダルは1枚のカードから の巻

お疲れ様です。伊藤です。
本日はこれにて失礼いたします。

昨夜、日報を提出してからのち、私は家の近くのツタヤにいました。
時間は午前2時前。
蛍の光が流れる店内、「J-Pop」コーナーの『ス』行の棚にその名を探していたアーティストは、『SCANDAL』。
知る人ぞ知る、かわゆい女子4人組によるロックバンドである。

SCANDAL Official website

今年に入ってからロックとアイドルに覚醒し、その2つを主に嗜んでいた私のもとに「アイドルがロックするバンドがあるんですよ旦那」という情報が舞い込んできた。
そんな夢のような話があるわけがなかろうて……と疑いつつも、彼女たちのYouTubeを観てみると、あれま、アイドルと呼ぶには(アイドルという立ち位置とは微妙に違うが、ルックスも良くて可愛く着飾った女子グループという意味で)予想を上回る激しいロックを奏でているものだから、私は「うおおおお!」と歓喜の雄叫びをあげて椅子から勢いよく立ち上がった。
「女子が激しくロックしてる、しかもかわゆい!」

さっそく彼女たちの音楽をもっと聴きたくなった。
CDショップに買いにいくことも考えたが、仕事があるので閉店までに間に合わないであろう。
そもそも、まだ詳しく知らないのだから、はじめはCDレンタルで他の曲を吟味し、それで気に入ったのならCDでもなんでも買えばよい。

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そして即日にアクションを起こしたわけです。
仕事の帰り、遅くはなりはしたもののギリギリ間に合うか? と滑り込んだツタヤにて『SCANDAL』のCDを見つけた私は、
「まぁ、最初なのでとりあえず」
とアルバム2枚を手にとり、いそいそとレジへ向かった。

すっかり閉店ムードになったレジには、若いメンズと若い女子が、2つあるレジをそれぞれ受け持っている。
もちろん私は、若いメンズの方へと歩みを進めた。

当然である。
いい歳した男が閉店間際の深夜にかわゆい女子4人組のロックバンドのアルバムをレンタルしに来た、というのは、あまり人に……とくに若い女子にお見せするにはちと気まずい。
以前にも述べたが、私は去年まではヒップがホップでモッコリの精神に則り、ブラックミュージックをはじめとする「本物志向」的な音楽に傾倒していた男である。
そんな私が、かわゆい女子バンドのCDを手にする日がくるなど、つい数ヶ月前まで予想だにしなかったのだから。

そんなわけで、「ただCDを借りるだけ」な人よりも数倍ドキドキしている私が、レジで対面する相手に男性を選ぶ気持ちもわかっていただけるはず。
「男の貴君なら、私にもいろいろな事情があるであろうことを察してくれるだろう。レジでのやりとりの間も、無言を貫き、男の辛さを理解した上でやんわりと見逃してくれるはず!」
そんな淡い期待を抱きながら、ふらふらとレジへ近付いたその瞬間、
「こちらへどうぞお」
完全に若いメンズに照準が合っている視界の隅で、ぴちぴちの若い女子が私を直視しながら軽く手を挙げて「こちらへどうぞお」と言った。
確かに言った。

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「どうぞお」と言われて無下に断れば、それこそなにか疾しいことをしていると余計に疑われるだろう。
「し、仕方がない。まぁ別にピンク商品ではないのだから、単に『SCANDAL』のファンかなにかと思われるだけで済むだろう。レジで会計を済ませるのにものの1分。その1分を耐えればよいだけの話だ」
そこで私は腹を括り、むしろ毅然且つ余裕溢れる足取りを保ちながら、歩みを15度右へ向けた。

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「あ、お客様、このカードはご本人さまではないですか?」
「え?」
レジの番をしていたのはいかにもロックバンドをやっていそうな女子店員さん(ぴちぴち)だったものだから、輪をかけて気まずい。きっと『SCANDAL』のことは知っているはずだ。
尚更目を合わさんと全神経を総動員して鈍角気味に俯いていた私も、あまりに予想外の展開に思わず顔をあげてしまった。

しかし心当たりなら、ある。
じつは、私が持っているツタヤのカードは、レンタル有効期限がとっくの昔に切れていた。
なので、前日に妻からカードを借りてきたのだが、どうやら(というか当たり前の話だが)本人でなければ自分のカードは使えないようである。

「でしたら、今、新しくカードをつくらないとレンタルしていただけないんです」
SCANDAL』のアルバムを開封して中身をチェックしながら、彼女はしかし私をしっかりと見据えて説明をしてくれる。
失神寸前の精神状態をつくろうため、私もまた能面のように平然とした無表情をキープしつつ
「へ〜、そうなんですか」
とクールに、白目がちに返事をする。

この辺りですでに1分経ったであろうか。
まったくもって予想外。
バーコードをピッポッパと読み込んで、お金を払ってハイ終了……
とはいかないのか。話が違う。

しかしここで「出直します」と引き下がるのも癪である。
それに、ここまで来て挫折すれば、それがトラウマとなって恐らく一生『SCANDAL』のCDを聴くことがなさそうな予感を私は咄嗟に覚えた。
いかん、ここは耐えろ……
「じゃあカード、つくっちゃいます」
軽くペロッ☆と舌をだしてみたつもりだが、きっと彼女は気付いていない。

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「カードが発行されてから2週間は当店のみでのレンタルとなりまして」
いいねえ、元気があって大変よろしい。
どちらかといえば、タワレコ店員の方がシックリきそうなルックスの彼女は、明るくハキハキと喋る好印象な女子であった。
上述のとおり、絶対にバンドをしているだろう雰囲気が全身から伝わってくる。メロコア、好きでしょ? いいね! エモいロック、いいね!

「ではこちらにお名前と住所などご記入ください!」
と、愛想よく用紙を渡してくれる彼女。
オッケー☆と記入を始めたはいいが、『SCANDAL』のアルバム2枚を手元に置いて、用紙に個人情報をつらつら書く私。
……を、黙ってじーっと見ているタワレコ系女子。
しばらくの沈黙。なにこれ、すごい辛いんですけど。なにかの拷問でしょうか?

閉店間際で他の客がいなかったのが不幸中の幸いである。
どっからどう見ても
「今さらツタヤデビューw、しかも記念すべき初レンタルがCDですぞwww って『SCANDAL』www」
状態の私である。
SCANDAL』をレンタルすることが恥とは全く思わないが、大のオトナが間抜けなミスの挙げ句にイチからツタヤカードを新規登録するという哀れな男の手元に置かれるにしては、かわゆい女子4人組が写るCDジャケットは皮肉なまでにポップである。

「……オチるな」
住所の項目をちまちま埋めながら、私はそう思った。
もし警察の取調室でこれとまったく同じシチュエーションを再現されたら、私はきっとオチる。
「うえええええええ」
泣いて膝から崩れ落ちるであろう。
崩れ落ちたのち、網にかかった海老の如くピチピチとのたうちまわるに違いない。

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人として大事な「なにか」と引き換えに新規会員登録を済ました私は、これまた愛想よくCDの入ったミニバッグを渡してくれるカノジョに対し、優しく接するのももはや限界であった。

気付けばBGM(蛍の光)も終わったようで、いくつかの照明が落ちた暗い店内は静寂に包まれていた。
「それでは、こちらのカードと、レシートですね! ありがとうございました」
そこに鳴り響く瑞々しい声。
タワレコ系女子店員のやさしさを振り払うかのように「バッ!」とバッグをかっさらった私は、
「ども」
とつぶやいてから足早に自動ドアへと向い、しかしドアをくぐろうとせんその刹那、くるりと振り向いた際で、

「まったくこっちがSCANDALだよ!」

と意味不明の台詞を叫んだのち、真夜中の商店街の闇に吸い込まれるように消えていったとか、いかないとか。

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『SCANDA』、とてもいいですよ。
今日はずっと彼女たちを聴きながら作業しておりました。
「かわゆい女子はちやほやされ、そこに胡座をかいてしまうもの。それ即ち怠慢、故にかわゆい女子が一芸に秀でることはない」
という、僻み以外のなにものでもない私の穿った偏見が霧散いたしました。
ありがたや。

それでは明日も宜しくお願いいたします。