5月9日の日報 親愛なる友人Aの憂鬱 の巻

お疲れ様です。伊藤です。
昨日は遅かったので、遅れて日報を提出いたします。

もしタイムマシンがこの世にあったら、皆さんはどうしますか。
恐らく、ほとんどの人が自身の歴史をなにかしら改変し、今よりベターな人生を創り出そうとするでしょう。

しかし私は違う。
もし私なら過去へと飛び、ある壮大な計画を実行することで、全人類を救うという崇高な目的に我がタイムスリップを捧げるであろう。

その計画とは、体重計を生み出した男……仮に「A」と呼ぶが、Aを「はじめからこの世にいなかった」ことにする計画である。

なにもAが体重計を発明する以前に戻り、彼の首に両手をかけて息の根をとめるわけではない。
Aの両親が運命的な出逢いを果たす直前へと遡り、ふたりの出逢う瞬間に、私が、ちょちょっと割って入るだけである。
ちょちょっと割って入り、妻(母)となる女性を夫(父)よりも先に口説き、落とし、酔わせ、抱いて、捨てる。
それだけで2人の邂逅は「なかった」ことになる。
するとどうだろう、
我々が知っているA(具体的にどこの誰かは知りませんが)は、マイケル・J・フォックスよろしくみるみる体が透明になっていき、しまいには消える。

それだけではない、
全世界の家庭の洗面台に置かれているあのモノリス碑のような四角い目盛付き台たちもいっせいに透明化をはじめ、たちまち消えてなくなってしまうのだ。
そして、私たちの記憶からもその存在は抹消される。覚えているのは、実行犯の私だけ。
ミッション・コンプリート、我々の勝ちだ。

お風呂に入る前、もしくはあがった後、
おそるおそる台の上に立ち、両足のつま先の前に表示される二桁(ときに三桁)の数字を怯えた瞳で見下ろすあの愚行。
その結果に胸を撫で下ろし、ほっと息をはく夜もあっただろう。
しかし、そのほとんどが奥歯が砕けんばかりに歯ぎしりした歪んだ表情のまま、悪いのは自分とわかっているだけにどこにぶつければいいのかわからぬ憤りを必死に押さえ込みながら「明日から、明日から…」と呪詛のようにつぶやいて台からそっと降りる人のはずである。
これを呪いといわずしてなんとする。
そして我々人類はこの呪いから未来永劫抜け出せない。
そこにインターネットがあろうが、ips細胞があろうが、アトランティス大陸が発見されようが、「ダメなものはダメ」なのだ。

イヴは林檎を齧った。
Aが、人の重量を数値化・可視化した。
Aよ、嗚呼Aよ、
おまえのその飽くなき科学への探究心が開いたのは、無限にひろがるダイエット商法への扉であり、その無限にひろがるダイエット商法そのものが宇宙! 宇宙なのだ。

体重計の上でそっと瞳を閉じ、永遠の宇宙を感じる夜がまたやって来ます。

それでは本日もよろしくお願いいたします。

【今日やったこと】
大地讃頌を歌う
・「とんねるずの生でダラダラいかせて」のWikipediaを読む