10月10日の日報

お疲れ様です。伊藤です。
本日はこれにて失礼致します。

昨夜遅くに帰宅する際、自転車に乗ってみたらなんだか寒いではありませんか。
今年はいつまでたっても残暑が続いていたので、冗談抜きで10月に入るまでハーフパンツで仕事場へ来ておりました。
ここに来てやっと肌寒い空気を感じ、
「秋だ!」
と季節の移ろいを味わったのであります。
「なんだ秋の野郎、遅かったじゃないか」

スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋。
秋といえば○○、な会話が方々で聞こえる季節でもあります。
みなさんは「○○の秋」みたいなテーマを何かお持ちでしょうか。

私の場合、
「秋」といえば、
夕陽を受けて黄金に輝くプラタナスの並木道、
ひんやり冷えた風が小さく路上を滑り抜け、
枯葉が思い出したように身を転がしていく。
眩い街の光を背に受けてコート姿のシルエットが浮かび上がる。
人影もまばらな公園に足を踏み入れた男は、しっとりとした足取りで並木道を進んでいく。
コートの襟を立てて歩く男は、やがて白と水色の場違いなペンキが剥がれつつあるベンチに腰を下ろした。
ポケットから取り出した文庫本サイズの古い手帳を、慣れた手つきで静かに開く。
そのページには、彼による日報が書かれていた。日付は5年前の今日。
男はその日報に何度か目を通し、やがて金色の天井を仰いで遠くへと想いを馳せる。

そう、彼はこの日になると毎年必ずここへ来て、自分の最後の日報を読み返している。
5年前の今日、女は男のもとから去った。
そして男はその日から日報を書くことを止めた。
「あなたは日報を選んだの。例えあなたがそうと気付かなくても」
それが彼女から聞いた最後の言葉だった。
女はブラウンのコートを揺らしながら、街の明かりに吸い込まれるようにしてプラタナスの宮殿から立ち去っていく。
捧げたはずの情熱が届いていなかった…唐突な後悔に突き動かされた右腕が虚しく空を掴んだあのヴィジョンは今でも鮮明だ。

彼女の「それから」を人伝いに聞き、誰かと幸せになったことを知ったのは今年の夏。
同じだけの時間がふたりに流れていたはずなのに、まるで自分ひとりが取り残されたかのような感覚に、ひとり侘しく思う夜もあった。
だがこうして秋に迎え、儀式のようにこの場所へ戻って来て「それもそのはずだ」と男はひとりごちた。
時計の針を止めていたのは、そう、自分自身だったのだから。
男はコートの内側から琥珀色の万年筆を取り出し、
あの日の日報をめくり、少し黄ばんだ手帳の新しいページにゆっくりと書き始めた。
「お疲れ様です。伊藤です」




「コートの襟を立てて歩く男は」の辺りから、
自分でもどうしたらいいかわからなくなり、
とりあえず一晩寝かせて、今朝になって箇所箇所に修正・加筆を加えましたが、
それでも未だにこの日報をどうしたらいいか、
全くわかりません。

それでは明日(本日)も宜しくお願いいたします。
焼き芋の秋!