11月7日 パスワーク・K

お疲れ様です。伊藤です。
本日はこれにて失礼いたします。

久しぶりに営業電話というものに対応しました。
「◯◯って会社のKさんが、伊藤さんいますか、って」
はじめに電話をとった同僚も訝し気な顔をしています。
それもそのはず、私に仕事の電話をかけてくるであろう人々の中に、Kという名の人間はおりません。
恐らくずっと以前にもかかってきた電話に私が対応したのでしょう、そして「まぁひょっとしたら御社にお願いすることがあるかもしれませんね」という100%同情心から来る嘘をついたのかもしれません。

ただ、こっちにその気がない時は、その気がないとズバリ伝えることがお互いのためであることには間違いないので、むしろ今日の電話でビシッと言ってやろうと思い立ちました。

「お電話変わりました、伊藤です」
「私、◯◯のKと申します。お世話になっております」
「お世話になってまーす」
「じつは私ども、かくかくをしかじかしておりまして、是非御社さまのお力になれはしないかと、一度名刺の交換に伺わせていただければと思いまして」
「それでしたら間に合ってます」
「名刺の交換だけでも駄目しょうか?」
「駄目ですね」
「わかりました、ありがとうございましガチャン」

駄目とわかってからの切り替えの早さたるや、こっちにその気も無ければ向こうもはじめからその気は無いんじゃないかと思えるほどの高速でした。もはや天晴。
実に無駄のないカンバセーション。何千ものテレアポをくぐりぬけて来たことで徹底的に無駄を削いだであろう文脈と、はじめからNOと言うつもりだった私のやる気ない文脈が奇跡の相互関係を見事に築き、「不毛なやりとり大賞 2013」ノミネート作品として産声をあげたのだった。

「なんだろう、ガチャ切りされたにもかかわらず、この爽快感は……」
なんと呼べばいいかわからぬ心地よさを引きずりながら一日を過ごしたのでした。

そして帰宅し、今更人には言えない日課(=LINE POP)に励みながらテレビでスポーツNEWSを観ていましたら、サッカーのチャンピオンズリーグがやっておりました。
その中で、バルセロナVSミランの試合における『これがバルサの真骨頂!』とアナウンサーが叫ぶ素晴らしいパスワークが写り、私は思わず秘密の日課(=LINE POP)の手を止めて画面に魅入ってしまった。

ダイレクトに「ポン、ポン、ポン」とパスを繋ぎ、軽快に相手ゴールへ迫っていくバルサの研ぎ澄まされたパスワークたるや、まるで今日の私とKの会話です。
「もし俺たちがもっと早く出逢っていたら、今頃は赤と青のストライプに身を包み、遠い欧州のフィールドで誰も奪うことのできない華麗なパスを交わしていたかもしれない……」
どう頑張ってもリフティング2回が限界の私の中で、昼間の興奮が再び蘇る!
営業電話もサッカーのパスも、広義における『コミュニケーション』。
そんな真髄を垣間見た日でした。

それでは明日もよろしくお願い致しまガチャン。