8月29日の日報 おまえはだれだ の巻
お疲れ様です。伊藤です。
本日も日報を遅れて提出いたします。申し訳ございません。
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「このまえ日報さん街でみかけましたよ」
「私の友達のお姉ちゃんのカレシが日報さんかと思うくらいそっくりなんです」
「たまたま見つけたんですけど、この○○って人、日報さんにそっくりじゃないですか? ほら」
このように、「おまえに似た奴」目撃情報があとを絶たない人生を歩んでおります。
しかも、それが芸能人や著名なアーティストなら「え〜、じゃあ同じ髪型にちゃおうかな」くらいの笑い話になるものの、あくまで一般人の範疇で多発しており、
「似てる人がいる」
と言われても、私がその似てる人と面識がないのでなんともリアクションを取り難い。
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リアクションを取りづらいのはまだいいとして、しかし皆の話を聞く限り、「似てる」の度合いが相当高く、私本人かと勘違いしてしまった、というケースも多々あります。
昨夜も、仕事場の同僚が私と職場の前ですれ違ったそうですが、私はその頃下北沢に向かっていましたので、それは間違いなく私ではありません。
「さっき出ていったと思ったので、忘れ物でもしたのかな、と声をかけるところでした」
アハハと話す同僚。
しかし私は生きた心地がしません。夏の怪談ではあるまいし。
同僚曰く、
服装も髪型もなにもかも同じだったらしく、かろうじて髪型が本当の私よりパーマがゆるふわっだったそう。
「そんな馬鹿な……」
まったくもって不可思議です。
髪型に差があるだけマシでしょうか。
仮に私と彼が同じ場所に出くわして、
「こいつは偽物だ!」
「いいや、こっちがニセモノだ」
「こいつを撃て!」
「待て、だまされるな」
と主人公を惑わせることになったとします。
そのとき、主人公は少し考えたのち、パッと銃口の向きを変え、左の男を撃つのです。
「バーン!」
「ぐわ! ……なぜ、わかった?……バタッ」
「ほんとうの伊藤さんは……そんなにゆるふわじゃないぜ!」
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それくらい私と瓜二つな人間が、目撃数からするに相当な数だけこの世に存在するらしい。
別の同僚が追い打ちをかけてきます。
「そういえばこの前、私の旦那が下北沢でチャリこいでる伊藤さんを見かけたって。平日に」
平日に私が下北沢でチャリを漕ぐことなぞあり得ません。
これもまた、別のそっくりさん目撃情報なのです。
こうなってくると、単に「似てる人が多い」というレベルを超えて、いわゆる『ドッペルンケンガー』説が浮上するのも無理はない。
ただ、ドッペルンケンガー……略してドッケンというのは、
「もうひとりの自分」
が単位となるので、時間も場所もばらばらのあちらこちらで目撃されるとなると、総数として辻褄が合わなくなります。
「自分 vs 自分、ふたりが出逢ったら、どちらかが死ぬ……」
という設定のはずが、
「自分 vs 自分 vs 自分 vs 自分 vs 自分(以下、十数回繰り返し)、みんなが出逢ったら、きっとウケる……」
になるでしょう。
「お前日報書けよ」「やだよ、おまえが書け」「なんで俺が」
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ドッケンではないとなると、果たしてなんでしょう。残留思念でしょうか?
日々日頃から日報のネタを探して強力なアンテナを貼り続けて街を闊歩する私ですから、その強過ぎる想いが先々に残ってしまい、エクトプラズムによって具象化。
存在し得ない私のコピーが生まれてしまったのかもしれません。
彼らは朧げな存在としてしばらくこの世を徘徊するのみ……。
もしくは、「パラレルワールドが統合化」の可能性もぬぐいきれません。
「もしも(IF)」の分だけ無数に派生していくパラレルワールド。
それらが1枚のレイヤーに統合されることによって、「IF伊藤」たちが同一世界に存在してしまった……。
となると、例の「今の自分よりゆるっふわパーマの自分」というのは、あれだ、きっと2月に美容院でパーマをかけたっきりで根元がストレートになってしまった今の自分よりも、オシャレに対する意識が高いもうひとりの自分……。
これらの残留思念説、パラレルワールド統合説、どちらも検証する価値はあるかもしれませんが、しかし今ひとつスピリチュアルな説なので信憑性に欠けます。
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個人的に最も高い可能性として挙げられるのは、
『クローン説』
です。
謎の機関が秘密裏に企むクローン計画。
私をはじめ多くの伊藤クローンたちは、しかし自分が本物の伊藤日報であると思い込んで暮らしている。
ある事件をきっかけに、自分がクローン(シリアルナンバー:ITO-018)であることを知ってしまった伊藤日報は、謎の黒スーツ集団に追われているところをある男に助けられる。
しかし伊藤をかばって銃弾をうけた男は、死ぬ間際にこう言い残すのだった。
「オリジナルに会え。やつは北極にいる……やつの名は……(ガクッ)」
「……(伊藤でしょ?)」
かくしてクローンとしての苦悩を抱えながら、彼の長い旅が始まるのであった。
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まぁなんでもいいや。
私自身はとくに不利益を被るわけでもなし、気にはなりません。
とはいえ、私の友人知人たちがことごとく伊藤クローンに出会ってフェイントを喰らうのが、見ていて可哀想です。
あーかわいそう。
それでは本日も宜しくお願い致します。
- 作者: 田島昭宇,大塚英志
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