2月15日の日報 いないいない の巻

お疲れ様です。伊藤です。
本日はこれにて失礼いたします。

空いてる地下鉄に乗り込んで席に着くと、
向かいのシートにお母さんと2人のお子さんが。
弟くんの方はまだ乳児なのでお母さんが抱えていましたが、お兄ちゃんの方は椅子に座って、なんだか暇を持て余している模様。

電車が轟音を響かせながら走るなか、私は手元のアイホンTwitterやらなんやらをいじっておりましたが、ふと顔をあげると、お兄ちゃんが両手で顔を隠しながら、指の隙間から私を見ています。
「?」
最初はなぜ彼が私をみつめるかわからなかったのですが、しばらくするとお兄ちゃんは掌を顔にくっつけながらゆっくり五指を広げて、ちょうど映画『エイリアン』のフェイスハガーのような状態に。
それでも、彼の瞳は私を捉えています。
「??」
そして、またゆっくり両手で顔を隠すのです。
それの挙動を2回繰り返した時、「あ、そういうことか」と気付きました。

お兄ちゃんは、私に『いないいないばぁ』をしていたのです。
お母さんの目を盗んで、向かいの人に「遊んでよ」とアピールしている。

さて困った。
私は、じつは子供が苦手です。
子供ギライ、とは少し違う。どちらかというと、子供が私を嫌いなのです。
「幼い子供による伊藤離れ」と称した方がいいかもしれない。
子供の扱い方が全くもってわからない。
これは私の悩みのひとつです。
そして、子供は何にしても敏感ですから、私の苦手意識が滲み出ているのを察知して、
「こいつ使えねーな」
と判断。
私がどれだけ甘い声で「よーしよーし」と話しかけても、一瞥をくれただけですぐに歩み去るのだ。
そして、そんな彼らに対して
「うわ、なにそれマジムカつくんですけど」
と、三十路オーバーの私はガンギレする負の連鎖。

それを友人は
「貴様が子供だから、子供にナメられるのだ阿呆」
と、とんでもない分析をかましてくれます。
私が子供などと決して認めるわけにはいかないが、常に子供にナメられているのは、なるほど私も肌で感じるぞおおいに感じる。

そんなわけで、
向かいのシートから「いないいないばぁ」で話しかけるカワユイ男の子を前に、私は文字通り凝固しておりました。

普通の、いわゆる「やさしい大人の男性」ならば、フフフと微笑みながら
「いないいない……ばぁ〜」
と、そっと返してあげるのでしょう。
それを見てお兄ちゃんも大喜び。
隣できゃっきゃっとはしゃぐ彼にお母さんが気付き、
「こら、もう、ごめんなさいね」
と目で会釈する……

そう、それが極めて一般的なのだ。
しかし!
私にはそれができない!

「いないいないばぁ、なんてできないよぉ!」
「どんなテンションですればいいんだよぉ!」
「目標をセンターに入れて…スイッチ、目標をセンターに入れて…スイッチ!!」
脳内で謎の分泌液を大量に放出しながら、「どうする、どうしたらいい?」と必死に考える私。

結果、情けないことに私は彼から目を離し、またアイホンをいじる(フリ)へと逃げたのだ。
「目そらしたwww!」
「なんちゅーやつ!」
声ともつかない声による非難が、地下鉄のトンネルにこだますかのようだ。

しかし、私ももう立派な大人である。
このままでいいのか、と自分に言い聞かせまくり、今日こそ自分を変えようと思い立ったのです。
「いいだろう、やってやろうじゃないか!」
ここで一発奮起、
数秒ほどアイホンをいじるフリをしてましたが、
静かな決意を秘めてゆっくりと顔をあげ、裏切ってしまった彼ともう一度対峙したのです。

次の瞬間、電車が駅に止まり、
親子はスンゲー速さで降りていきました。

お兄ちゃんは、
私が目をそらした瞬間に「こいつはダメだ」と判断したのでしょう、
「向かいのシートには誰もいなかった」という仮想空間を設定したのだろうか、全くこちらに気を向けることなくお母さんに手を引かれてサーっと降りていった。

いないいない……そしてそのままいなくなった状態。

胸辺りまで両手を持ち上げていた私は、今度はまばらな周囲の客の目が気になりまくって(ほんとは誰も見ていないが)、咄嗟に
「ふわっ!」
と髪を後ろにかき上げた。
そしてこれまた無駄に高い位置までアイホンを持ち上げて
「俺、フリック入力めっちゃ速いんスよね」
を一心不乱にアピールして、残りの数駅をやり過ごすことに決めたのです。
「だから子供は嫌いなのだ!」

それでは良い週末をお過ごしください。
♪むーざんむーざん