10月3日の日報

お疲れ様です。伊藤です。
実は今日(木曜日)より、私用にて某外国へ来ておりまして、昨日は日報を提出しようにもフライトに搭乗するまでに時間が作れなかったので、到着した今現在、ホテルのロビーより10/3の日報を提出いたします。

その昨夜のフライトなのですが、
私が座った席がなんだか調子が悪く、なんとリクライニングして席を後ろに倒すことが出来なかったのです。
しかし前の席の人は容赦なく席を全開に倒してくる。
ただでさえ狭いエコノミークラスの空間で自分だけリクライニング出来ないということは、それ即ち己の空間が約半分になってしまうことを意味します。
これはいかん、こんな状態で朝までもつわけがない。
「フライトアテンダントさん、ちょっとこのシート壊れてるよ、これじゃにっちもさっちもいかないから、ビジネスクラスに移してくれ!」

最初に対応してくれた金髪のおねーちゃん、「ビジネスクラスに〜」のくだりを見事にスルーしながら、しかしなんといきなりボールペンでリクライニングボタンの隙間をブッ刺しまくって無理矢理ボタンを直そうという、トンデモ荒治療を施してくれたにも関わらず、しかしシートはうんともスンともいいません。

そこで彼女は別のスタッフを呼びに。
この時点で周りの皆さんの視線を浴びまくりの私。
ボールペンでボタンをブッ刺す猟奇的アクションに驚いたようです。私も驚いた。

しばらくすると、どうやらアテンダント長らしい中年のおじさまがやって来ました。彼だけシャツの肩部分になんだか制服っぽいパッドが付いている。カッコいい。
そのアテンダント長、「ちょっと席から立ってくれないか」と言ってくるので、なんだなんだと訝しげに席を立つと、彼は突然、

座席のソファ部分をひっぺがす!
ビリビリーッ!

その勢いで剥き出しになった鉄骨フレームの隙間に腕を突っ込み、なにやらグリグリしていると、
ガクン!
座席が後ろに倒れた!
そして何ごとも無かったかのようにソファをくっつけ直し、

「ほらね」

と、まるで日常茶飯事の如き熟れた一言を残して立ち去っていきました。
その間、じつに数秒。

周囲も騒然、呆気に取られて立ち尽くす私へと一斉に注目を浴びせてきます。まるで私が問題児だと疑われているかのようで、かなり恥ずかしい。
こんな時、読者の皆さんだったら、バツの悪い思いに赤面したのち、何故かこちらから頭を下げて周囲に詫びたりするかもしれません。
私もここが日本ならそうしていたかもしれない。

しかしここは雲の上、周りの乗客もみな外国人である。
むしろ、責任の所在を明確にすると同時に、私の汚名を返上し、更には日本人の懐の深さを全世界にアピールできる千載一遇のチャンスである。
席が壊れていたのも、
ボールペンでボタンをブッ刺しまくったのも、
シートのソファを引っ剥がして禁断の内側を披露したのも、
全部私は悪くない!

前の席の中国人男性3人組、
後ろの席のインド系カップル、
そして隣に座る白人のかわいらしいオバちゃん2人組。
彼らに順に目を合わせてから私がとったリアクション、
それは

眉を吊り上げ目を見開き、
口をヘの字に曲げて肩をすくめる。
そう、

ワーオ

のリアクションであった。
するとどうだろうか、目を合わせた周囲の人々も一様に

ワーオ

と返してくれるのである。
果たしてそこには「ワーオの環」が誕生した。
これぞ人種の壁を越えたリアクション芸!

ワーオのおかげで張りつめていた緊張の空気は蒸気を発しながら溶解し、アテンダント長のあの強行策も一種のリクライニング芸と思えてしまうほどのどかな雰囲気へ一変。
こうして私たちは楽しい浪漫飛行を一晩中繰り広げましたとさ。
めでたしめでたし。

それでは本日も宜しくお願い致します。

※飛行機が着陸する際は、全シートのリクライニングを元に戻すように促されるのだが、この時も別のアテンダントお姉ちゃんに注意された際に
「この椅子、壊れてるから動かせないのだよ」
と言い訳を垂れると、
彼女は後頭部位をガシッと掴み
「フンッ」
と力を込めてシートを元の位置へと戻したのである!