9月6日の日報

お疲れ様です。伊藤です。
昨夜はいつ寝たのかわからないほど綺麗に寝落ちしてしまいましたので、日が明けて日報を送らせていただきます。大変申し訳ございません。

昨日は夕方に新居の換気扇を取り替える工事があったので、少し家に帰ることがありました。
仕事場から自転車で10分もかからないほど近いのですが、時間になってきたので自宅へ向かおうとすると、突然空模様が怪しくなり
「これってもしかして☆」
と思いながら自転車に乗った途端

ダーッ

と鉄砲雨が。
「もはや安定しておる。期待を裏切らないこのクオリティ!」
と意気揚々としながら、そしてズブ濡れになりながら自転車で帰宅しました。
濡れた服を着替えながら
「これは、戻りは傘&徒歩だなぁ」
と呑気に考えておりましたら、
換気扇の工事が終わる頃には雨は止んでおり、ベランダから外を覗けば道行く人々は皆傘を畳んでいるではないですか。
「ラッキー、自転車で戻れる〜☆」
と、小刻みにカズステップを踏みながら自転車に跨がって出発、すぐ近くの甲州街道の信号で止まった瞬間

ダーッ

と鉄砲雨が。
先程は、どうせ帰宅するのだから着替えれるし、あれはどう見ても雨が降る様子だったのでまぁ仕方が無いと腹を括れましたが、この卑劣なフェイントにはいささか閉口。仕事場に戻る頃にはまた濡れネズミとなってしまったのです。

…とまぁ、ここまでは毎度お馴染みの『我が伝説のレイニースキル』の話ではありますが、今日のように見計らったかの如く雨が降ってくる有様は、私にあるモノを喚起させました。

そう、それはペットのワンちゃんです。
まるでご主人様を慕ってヨチヨチついてくる子犬のようではないか、この雨雲は。
「慕われる」という表現がぴったりなほど、雨雲に愛される男、伊藤日報。
そんなことを考えていると、この何の役にも立たない超常能力もなんだか愛おしく思えてくるからおもしろい。
「そうか、雨雲よ、お前は俺のことが好きなのか」

こうなってくると私のイマジネーション・アビリティ a.k.a イマビリも相まって、色々と考え込んでしまいます。
私が屋内(自宅)に入ってしまったが故に、外で主人が出てくるのを待っている雨雲はそれ即ちコンビニの前で紐につながれたワンちゃんということになる。
可愛いし、かわいそうである。
おお、なんてかわいそうな雨雲!

さらには、例えば私が茨城県辺りに
「っそれ!」
とテニスボールを投げたなら、きっと雨雲は
「キャン!」
と吠えながら茨城県へ猛ダッシュ、しっかりとボールをキャッチして私のところへ嬉々として戻って来るでしょう。
その時はつまり、茨城県にフイの土砂降りをお見舞いしてやったことと同義であり、これが埼玉、千葉なども射程距離に入っている以上、その地域に住んでいる連中はこの私に迂闊にナメたクチを効けなくなるわけです。
そう、私は「降らし屋」。


「あ、あの…」
「なんだ」
「あなたは、降らし屋ですね」
「誰から聞いた?」
「この辺の人に聞けば、誰だって教えてくれます。降らし屋さん、今日はお願いがあっ…」
「ダメだ」
「え?」
「俺はもうその稼業から降りた。他を当たってくれ」
「そんな、せっかくあなたを探し出したのに」
「ダメなものはダメだ」
「お願いします!(土下座)」
「…」
「どうしても、雨を降らせたいんです!」
「…」
「私には昔、将来を約束しあった恋人がいました。しかし彼女は、言い寄ってきた金持ち野郎に心を惑わされ、そいつの物になってしまった…。金に目が眩んだ彼女は、そのまま金持ち野郎と結婚するんです。その式が明日だ。
だから私は、私は、せめて明日をドシャ降りにして彼らの結婚式を台無しにしてやりたい! 金も地位も名誉もないけれど、こんな俺に出来ることといったらそれくらいだ。どれだけ女々しいこととわかっていても、そしてその結婚式が完全屋内で開催されることがわかっていても、こうでもしなきゃ俺の想いは永遠に報われないんだ!」
「…」
「はぁはぁ」
「おまえ」
「すいません、取り乱してしまって」
「確かに女々しい奴だ」
「はは、そうですよね。すみません、お時間を取らせてしまって。きっと私は、ただ誰かにこの行き場の無い想いを聞いてほしかっただけなんだ。雨は、必要なかったのかもしれません」
「おい」
「え?」
「幾らだ」
「?」
「幾ら払えるのかと聞いているんだ」
「それは…こちらです。実は、彼女に内緒で指輪を用意していたのです。でもそれももう必要なくなった、だからお金に換えてきました。こんな額で降らし屋を雇えるわけないと周りにも言われましたが、今の僕にはこれしかご用意できないんです」
「いくぞ」
「え!」
「報酬はそれでいい」
「ほ、ほんとうですか」
「久しぶりに見たくなったんだよ、雨に降られてその日を今ひとつ盛り上がれない連中の地味な苦笑いを、な」
「あ、ありがとうございます!」
「礼を言うのはまだ早い、お前、人の幸せを台無しにする覚悟は出来てるんだな?」
「……こくり」
「よし、早速出発だ」
「あ、あの!」
「なんだよ」
「その、失礼なことをお尋ねしますが」
「だからなんだよ」
「ほんとうに、雨…降らせられるんですか?」
「まぁ誰だって疑うのも無理ないよな」
「すみません、でも果たしてそんなことが可能なのかって…」
「ほら、もう呼んでるよ」
「え?」
「久しぶりに檻から出したからな、少々気が荒ぶってやがるぜ」
「ま、まさか」
「表を見てみろ」
(ゴロゴロ〜)
「雨だ……」

それでは明日もよろしくお願い致します。